microscopic colitis (ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)

microscopic colitis

 1976年にLindstrom1)は,慢性下痢と腹痛を呈し,注腸や直腸鏡で大腸粘膜に肉眼的異常を認めず,直腸粘膜生検にて被蓋上皮基底膜直下に特徴的な厚い膠原線維束を認めた患者に対してCC(collagenous colitis)という疾患概念を最初に提唱した.一方,1980年にReadら2)は原因不明の慢性下痢を主徴とし,注腸やS状結腸鏡で大腸粘膜に異常を認めず,直腸粘膜生検で軽度の炎症性細胞浸潤がみられるものに対しMC(microscopic colitis)という疾患名を提唱した.1989年にLazenbyら3)は,ReadらのMCは上皮間リンパ球の著明な増加が特徴で上皮下の膠原線維束肥厚を認めないことから,MCの呼称をLC(lymphocytic colitis)に変更することを提唱し,LCとCCは非常に類似した病態を呈するが鑑別可能な類縁疾患であると考えた.その後,ReadらのMCという用語はLCとCCを包括する総称として用いられるようになった.

 欧米におけるMCは,罹患率は約10.0(人口10万人対),平均発症年齢は60歳代後半,男女比は約1 : 3である4).本邦におけるMCの報告数は極めて少なく,CCは2011年までに182例の報告しかないが,その平均発症年齢や男女比は欧米とほぼ同じである5).また,本邦ではLCに関する報告はほとんど認められない.

 MCの原因として,自己免疫疾患,胆汁代謝異常,腸管感染症,薬剤〔NSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drug),プロトンポンプ阻害薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,H2-blocker,チクロピジンなど〕が挙げられているが結論は得られていない4)

 MCの診断基準は,臨床的には少なくとも1か月以上続く慢性の水様下痢,腸粘膜は肉眼的に正常か軽度の異常所見(発赤や浮腫)を呈する.病理組織学的には粘膜固有層に慢性炎症性細胞浸潤,上皮間リンパ球(intraepithelial lymphocytes ; IEL)数の増加(正常は上皮100個中IELが7個以下),表層上皮の傷害(上皮の平坦化,剥離・消失)に加え,CCでは大腸被蓋上皮直下の厚い膠原線維束(10μm以上,Fig. 1),LCでは上皮間リンパ球の著明な増加(上皮100個中,IELが20個以上)を認めるなどである6)

Fig. 1 collagenous colitis.被蓋上皮直下の膠原線維束(S状結腸).
Fig. 1 collagenous colitis.被蓋上皮直下の膠原線維束(S状結腸).

 従来より,MCの病理組織学的変化は右側結腸に顕著であるといわれてきたが,最近,右側と左側結腸の両側に等しく認められるので,診断に際しては左側結腸(直腸以外)の生検で十分であるとの報告がある7)

 MCは慢性の水様性下痢を主徴とするが,時に血便を認めることもある.そのほか,腹痛,低蛋白血症,体重減少などが認められる.当初,CCは注腸検査や内視鏡検査などにおいて肉眼的異常所見を認めないことが特徴とされてきたが,後に異常が少なからず指摘されている.CCの内視鏡所見として大腸粘膜の血管透見網異常,発赤,浮腫,顆粒状粘膜,縦走潰瘍(Fig. 2)などが挙げられる.